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かつて繊維工業が盛んで東洋のマンチェスターと称され、日本の重要な港の一つを持つ世界都市大阪(人口270万人)から、フローニンゲン市へ。依藤光代さんは2008年に、それを実行しました。これが個人的にどのような意味を持ったかを、彼女は気持ちよく率直に話してくれました。
まず、フローニンゲンの印象を数語で表現してもらいました。その答えは短いものですが、多くを語っています。
「魅力がギュッと詰まった街。誰でも(どこの国の人でも)住みやすく楽しめる街。」
以下は依藤さんへのインタビューです。
あなたが専攻されている交通システム学の観点から、フローニンゲン市をどのように見ましたか?
自転車交通が素晴らしいと思います。自転車道や自転車のための信号などには工夫がしてあり、日本でも見習う点がたくさんあります。例えば、車道の脇に自転車のためのレーンを設けたいと考えても、バスがバス停で停車しようとすると自転車道をふさぐ形になってしまいます。それも問題の一つになっていて、日本では自転車道の整備は前に進みません。また、日本の老人は時速5キロ程度で自転車をこぎます。速く走ることができるスポーツタイプに乗る人は、30キロ以上のスピードで走ります。これらの自転車がみんな狭い空間で行ったり来たりしているので、頻繁に危険を感じます。それに比べてフローニンゲンでは、若くても老人でも遅すぎないスピードで整然と走っており、ルールが行き届いているように見えます。自転車が交通機関の一つにしっかり位置付けられているのだと感じました。
街が小さくまとまっているので、どこにでも自転車で行くことができます。しかも街の中心部では一方通行や自動車進入禁止の通りがたくさんあるため、自動車にとっては大変に不便になるよう設計されているそうです。都心も自動車がビュンビュン飛ばすような大阪とは考え方が全く違います。自動車社会の限界を見抜き、早くから歩行者と自転車のために街ごと計画されているのだと思うと、とても感心してしまいます。
大学のことに戻りましょう。大阪と比べて学生生活は違っていましたか?
日本の学生は、実家で家族と暮らすか、もしくは家をでて一人で生活するかのどちらかです。大学が遠ければアパートの一部屋を借りて一人で生活します。その生活は、キッチンもバスルームもすべて部屋の中にあるため、他人とのかかわりはほとんどありません。フローニンゲンではトイレとキッチンが共同だったので、朝夕はキッチンで他の学生に会い、そして話をすることができました。日本で、完全に孤立して暮らすより、断然楽しく過ごすことができました。家賃は高めでしたが
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フローニンゲン大学での授業はどうでしたか?違っていましたか?
フローニンゲン大学では、大阪大学にいるときより力をいれて勉強しました。各授業の前に行う予習に力点があります。大阪大学では、予習というのはほとんどなく、授業中にメモを取り、それを元にレポートを書いたり、期末試験のために勉強します。
私は Spatial Science(注1)学部の中に留学生のために設けられたインターナショナル・スクールに属し、そこで英語にて授業を受けました。又正規学生が受ける授業で英語のものをいくつかピックアップして受講しました。
コースの名前は覚えていませんが、「発展途上国の開発」について理論を学ぶものや、アフリカの国々の統治について勉強しました。
そこでディスカッションが行われたのですが、オランダ人は専門の学生ばかりだったこともあり、口を挟むこともあまりできませんでした。オランダ人の生徒が英語を使って専門的で論理的な発言のやりとりを行っていたのが、とても印象的でした。さすがみなさん英語が上手です。
(注1) オランダ語で Ruimtelijke Wetenschappen(空間/場所/地域 学)
国籍の構成は? 又日本人として他の学生の態度をどう思いましたか? 大きな文化の違いがありましたか?
先に話したように、私は主に留学生のためのインターナショナル・スクールで英語の授業を受けました。アジア人は私一人で、東欧からの留学生がたくさんいました。
文化の違いに関してですが、私は自分が生まれた国「日本」について自慢話ができないことに気付きました。みんなの口ぶりからは「私の国はこんなにすごい」という自信のようなものが漂っています。きっと一つの理由としては、日本人は謙遜するのが上手で、それが日本社会でスムーズに生きることのコツとして定着しているからだと思います。もう一つは、日本の町並みも日本人の習慣も身体的特徴まで(身長、胴の長さ、眼の大きさ、髪の毛の色など)、アジア以外の国々の人と比べて見劣りするような気がしていたからでしょう。でも向こうで暮らすうち、「黒沢明監督」は世界中で認められており、「宮崎駿監督」のアニメ作品は大好評で、世界に誇るものがまだまだたくさんあるということに気付きました。黒髪も大き過ぎない目も「見劣りする」のではなく「特徴的である」と彼らは考えているという事実も教えてくれました。それ以来劣等感は全くなくなり、今では自慢にこそしませんが誇りに思うことがたくさんあります。フローニンゲンの友人たちにとても感謝しています。
授業の後や週末などに、どんな所に出かけましたか?
週末はバーにでかけることがありました。日本で「飲みに行く」といえば、椅子に座って料理を注文しておなかいっぱいになりながらお酒を飲む、というスタイルです。フローニンゲンは、料理を食べるよりはビールを飲む方がメインで、半分飲んで半分ダンスを踊っていました。料理を食べない分お金は安くつきます。初めはダンスといっても踊り方はわからなかったのですが、それもだんだん慣れることが出来、最後はなんとなく楽しめるようになっていました。
多くの学生は、スポーツをしているようです。(彼らにとって自転車に乗るのはスポーツには入りません。)サッカーやバスケ、ハンドボールもありました。
ワッド・ローペンにも友達と参加しました。ぬかるみに足を取られて思うように進めず、慣れるまでは他のみなさんについていくのでやっとでした。最後の方は周りの景色を楽しむ余裕もできて、海の中を散歩するって素敵だなあと思いました。
オランダの文化から得たものは?
フローニンゲンの人たちは、正しい情報と自身の感覚でもって、的確に状況を判断しているように見えました。政治にしても自らのライフスタイルにしても、マスメディアを全面的に信じて流行にのるというよりは、きちんと自分で考えて選択しているようです。抽象的な書き方ですが、世の中の大きな流れがいつも正しいとは限らない、と学びました。私も「考える」ことをしなくては、と強く思いました。
何か共通点がありましたか?
ほとんどありません。すべてが違っている気がします。ひとつあげるなら、小さな「子供」はどこの国でも同じだと思いました。小学生くらいの日本の子供もいたずらしたりしますが、フローニンゲンで会った子供たちはもっと積極的にいたずらしていたような気がします。たまに悩まされました。
フローニンゲンでいいなと思ったこと、嫌だなと思ったことを簡単に。文化、スポーツ ... 批判的に思ったことはありましたか?
スポーツについて:サッカーの大会があると、街全体が盛り上がります。私の留学した2008年はちょうどUEFA欧州選手権があり、オランダのチームが闘う日は、たくさんの人がバーに集まり一緒になって応援していました。全体がまとまるかんじがして、日本の野球(セリーグ)を思い出しました。
批判的に思ったこと:銀行に手続きのために行くと、接客の態度が気持のよいものではありませんでした。スーパーにしろ、全般にサービスに敬意が足りない気がしました。何か向こうの手違いがあってそれを訊ねても、「それは私がやったことではない」と切り返され、責任がどこにあるのかまったくわからないままであることが多いようです。
しかし、よく考えると、日本人はほかの国の人に比べて神経質ですから、特別にサービスを発達させてきていて、私はそれに慣れきっているから他の国で物足りなさを感じているのかもしれません。フローニンゲンで生活する中でそう納得しました。日本とは本当に面白い国です
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どういう意味ですか?
持前の神経質さで、国内のサービスを高められるだけ高めてしまったことにより、海外に行くとその国のサービスにおいて物足りなさを感じることが少なくありません。
しかし同時に、日本ほど丁寧なサービスでなくても不都合は発生しないのだ、ということを発見するのです。そんな日本人が滑稽で愛おしいような気がします。
また、そのような経験はどの国の人でもできるというわけではないので、面白い国に生まれたなとも思います。
日常生活で特に気付いたことは?
街に出ると、トイレがあまりありません。店のトイレを使用させてもらいますが、お金が必要です。公衆トイレが整っている日本の方が外出しやすいと思いました。
フローニンゲンには小さなシアターがあり、毎晩のように演劇やダンスなどを上演しており、代金も敷居もそんなに高くありません。大阪にいる時よりも、文化に近いところで生活している気がしました。
大阪とは公園の使われ方が違います。大阪には、木々よりもスポーツのできる広場や、散歩のための歩道を重視した公園が多いですが、フローニンゲンの公園は芝生と池と木々があり、そこでは寝転がったり本を読んだり使い道が自由です。特に夏はみなさん日光浴を楽しんでいました。日本にも緑いっぱいのゆっくりできる公園があればいいのにと思いました。
働き方も違うようです。日本の大人は仕事の予定を詰め込みすぎてパンクしそうに見えます。フローニンゲンの大人は、週末はきっちりプライベートを楽しみ、平日も日本よりはるかに早く帰宅し食事をとっていました。日本でもいつか、生活の「楽しみ」の部分の割合が大きくなっていけばいいなと期待しています。
オランダと食べ物について。フローニンゲンに滞在中、何を食べましたか?
オランダの食べ物でよく買ったものは、ストローヘンワッフル?(中にキャラメルの挟まったもの)です。よく食べたので、太った気がします。
オランダでは日本料理を自炊していました。アジアから調味料を輸入しているスーパーがあるので、食材はだいたいそろえることができます。
私が日本人だというと、「スシを食べてみたい」という友人がたくさんおり、何度か誰かのために作ったことがあります。日本で寿司といえば「握り」のことですが、海外で言うところの寿司は「巻きずし」のようです。ベジタリアンが多い国では特に、中身をアレンジできる食べ物として人気のようです。
最後に依藤光代さんは、次のように話します。
フローニンゲンは、誰でも寛容に受け入れてくれる街だと感じました。学生が多い街だからでしょうか。おかげで、大学生活だけでなくたくさんのことにチャレンジさせてもらいました。今私の住む大阪のことを考えると、外国から来る人は増えてはいますがまだまだ少なく、また私たちが英語に長けていないこともあり、オランダ人が私に接してくれたほどには外国人とうまく付き合えていない気がします。
日本には「おもてなしの心」があります。日本特有の親切さと気遣いで、訪れる人誰もが心から楽しめるような大阪にしたいと思います。みなさん、どんどん遊びに来てください!!
[依藤光代さんのプロフィール]
・兵庫県で生まれ育つ。
・2008年1月から12月までフローニンゲンに滞在。
・大阪大学では「土木」で交通計画や都市計画、まちづくりなどを学ぶ。
・フローニンゲン大学では主にオランダの都市計画の歴史などについて学ぶ。
・趣味:日本で自転車にのって色々な街をめぐること。
・好きな音楽:特になし。
・好きな作家:最近日本の誇る村上春樹を読み始めました。
・好きな映画:ミシェル・ゴンドリー監督に凝っています。
俳優ではトミー・リー・ジョーンズさんが渋くて素敵です。
・将来:都市計画コンサルタントで働く予定。
・夢:日本の街が、住んでも訪れても気持ちいいような魅力的な場所になるよう
活動したいと思います。
>>大阪大学フローニンゲンセンター
>>ゼルニケ・キャンパス フローニンゲン(写真)
>>フローニンゲン大学(英語)
>>千里・住まいの学校
(依藤さんがゲストとして話す「水車、自転車、フローニンゲン」が載っています)
自転車の街フローニンゲンに、日本のTVが関心を持ちました。NHKがフローニンゲンの自転車について旅行ドキュメンタリーを撮影します。
この街が選ばれたのは、自転車が街の映像から切り離せないからです。フローニンゲン市は既に、オランダでもっとも自転車に優しい市という賞さえ獲得しています。NHK がその旅行番組「世界一番紀行」の中で、フローニンゲンを取り上げた理由が頷けます。 |
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そのシリーズでは毎回、一人の日本人が世界のどこかの街へ旅行し、そこからレポートします。冒険、驚き、不便さが通り過ぎます。この日本人は、住民たちの習慣や気持ちを知るために、いつも彼らと交わります。
その旅行者がこれらの経験を国に持ち帰り人々と共有することが、その意図です。
フローニンゲンでその撮影班は、これから自転車に乗ることを学ばなければならない子どもと学校で既に学んだ子どものいるオランダ人の家族を、カメラで追います。
(ダハブラット・ファン・ヘット・ノールデン - 2010年3月4日 - より) |
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© 2010 Trankiel
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